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東京都チャレンジ農業支援センター

江戸時代から続く生産農家さんが実は東京(特に今では西東京)には多いのです。東京出身の自分達もこの仕事に関わらなければ知ることはなかったでしょう。東京の農業なんて聞き慣れない言葉かもしれませんが、どの地域にも負けないような高品質な農産物を作り続けています。しかし現在では東京であるが故の事情で持続的な農業を行っていく難しさがあり生産者の方々を支援する制度として2013年にはじまった「東京都チャレンジ農業支援センター」での仕事になります。

デザイナーとしての専門職登録は自分達が第一号。当初、農業にデザインという接続が理解されにくかったと初代の所長さんはおっしゃっていました。日本での広告デザインの歴史は「市場」を起源にするとの説がありますが、デザイナーとして第一次産業に関われる事は長年の希望でもあり、自分たちにとっても最重要課題であるとおもいます。生産者の方々と直接、日々難問に楽しく取り組んでいます。

Takishima Vegetablesマーク

Takishima Vegetables

瀧島さんのところはハウスを使用しない完全露地栽培で、主要な生産物はキャベツ、金子ゴールデン小麦、トウモロコシ、えだまめ、らっかせい、タマネギ、にんにく、みかんなどです。それ以外にもアスパラ、柿、そのほか草花や植物が随所に。それまで見てきたどんな畑とも様子が異なり、様々な種類の作物があちこちに植栽され、畑の傍らに咲く花々、特にイチジクの木の周りはエデンの園のよう。こんもりした草むらから緑の妖精達が飛び出してくるのではないか、そんな気配すら感じる豊かな園でした。

多様な緑、ゲート、ガーデン、漢字の「瀧」という文字に、葉っぱの向こうからこちらを覗く「何か」を見つけました。

Takishima Vegetables
森谷園1

森谷園

“色は静岡、香りは宇治よ、味は狭山でとどめさす” という狭山茶で有名な森谷園さん。初めてうかがったのは新茶の時で香りと水色の美しさにとても驚きました。やはりこの美味しさはペットボトルのお茶では再現することが出来ません。

古きものを新しくしたいというのは一見当然で傷みや劣化とともに時間という得難い価値の「古さ」も捨てられてしまいがちです。時間堆積によってつくられる逆戻りできない物質の変化には価値が潜んでいる場合が多々あります。森屋園の敷地には石造りの蔵があり工場は木造の木組みで、いたるところに時間が堆積していていました。固有の時間は固有の歴史を持っていてそれが唯一の区別(Bland)につながります。蔵に眠っていた古い茶箱のブリキからインスピレーションを得てブリキ素材を用いた看板に職人さんに手描きで昔の茶壺を描いてもらいました。

森谷園の玄関にはこのお茶を飲んだ立川談志さんの丁寧な御礼文「末長くつづけてください」がかかげられています。

久安

久安

1855年(安政2年)の江戸時代から代々続く久安さん。その昔は畜産や養蚕をやっていたそうで、現在では葡萄、キウイ、梨をメインに栽培し、特にシャインマスカットなどの高品質な貴重種はオハコです。キウイの木の根元に傷が付いているのは猫が引っ掻いてしまうそうで、キウイがマタタビ科マタタビ属だとはこの時はじめて知りました。

葡萄は世界でも最古の栽培植物とされていて、創世記にも記載があります。石榴と並び豊穣のシンボル、聖なる果実として尊ばれ、古代ケルト文化でも「21の聖なる樹木」の一つになっています。教会の壁に「葡萄唐草」と呼ばれる装飾柄を良く見かけます。葡萄唐草はアレクサンドロス大王のペルシャ遠征でオリエントに伝播し、仏教とともに中国を経由し、日本にも伝わりました。江戸末期を起源とする久安さんにうってつけのモチーフとなりました。

榎戸園

榎戸園

青梅市にて親子十七代この地にて生計を営み、三代前のおじいさまから植木業(当初は杉の苗木作り)をはじめ、今では挿し木の苗作りから造園までを行なっています。「他人のものはつかえない」というスコップとハサミはこれ以上ないくらいに研がれていて見ているだけで切れそうでした。

代々続いている農家さんは屋号をもっていることが多いのですが出してきていただいた昔の漆器の底には「山」と「十」を合体させたマークが描いてありました。先代に山の地主でもあった「じゅうごろうさん」という方がいたそうなので、おそらくこれがこのマークの起源だと思われます。そこで昔の屋号をスコップのように研ぎ澄ましたシンボルを提案。当初、榎戸さんからはピンとこないと言われてしまいましたが見るにつけ馴染んできて今ではオリジナル商品のマークとして大活躍しているそうです。

田中園芸

田中園芸

お花を生産する農家さんは1964年の東京オリンピック後に東京から始まりその技術が地方へと広まっていったそうです。東京の花は排気ガスに慣れているため丈夫である。などなど二代目のお父様からは興味深いお話しをたくさんうかがいました。

「田中園芸」という字の由来は見てみるとなかなか興味深く「田:区分」「中:旗」「園:中に植物のある囲み」「芸:種芸/種をまき育てる人」(字統/白川静)というそれぞれの文字の出自があります。農家さんの苗字を調べますと職業を指し示していることもよくあります。その文字を主力生産品の4種、シクラメン、アブチロン、ポーチュラカ、サフィニアと融合させてできあがったシンボルマーク。田中園芸という文字の可読性よりも象徴としての意匠を意識しています。

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